平成四年、八十八歳で亡くなった父の本棚がそのままでした。

ぼつぼつ整理しなければと思い立ち、父の生前、両山寺の先代ご住職が「要らなくなったら一番に声をかけてくださいよ」とおっしゃり、来訪の度に、本棚に新しい本を見つけられ「良い本を手に入れられましたなぁ」と驚いておられた様子を思い出し、本院の新築を機にお譲りすると決めました。

埃のついた分厚い仏教本が次々と出てきました。

めくると父が読んだ形跡の赤線や鉛筆での注釈や書き込みがあり、父の生きざまを今更に認識、生涯学び続けた姿が辞世の句と重なり、涙が出てしまいました。

「白き馬老いて青年清らかに」

入院中、西東三鬼俳句大会に投句するよう、やっと聞き取れる声で詠んだ句です。

残念ながら入選の知らせの前に他界してしまいました。

 

仏教関係が二百冊以上本棚から去りました。

末永くあるべき場所で、生かされると安堵いたしました。趣味だった俳句の本がずっしり残っていますが、当分そのままにしておきます。

四人の姉妹が高校二年生の時使っていた参考書、枕草子通解も出て来ました。それぞれのクラス、席次、名前が裏表紙の内側に書いてあります。教育熱心だった父が選んで娘に与えたものです。

一段の春は曙、から読み直しています。新鮮です。

心だけ少女に返っています。