草木染めについて
庭の片隅に紫草の白い小さな花が咲きました。
これはかつて天子のみが着用する濃紫の染料になる植物です。
種を蒔いた年は頼りない草でしたが次第に株が増えがっしり育っています。
十年育てた紫草を抜くとたくましい根が現れます。
根の皮に色素がひそんでいますので、お湯に浸して揉み出します。
椿葉の灰汁で反応させる作業を何度もくり返して上品な紫色を出します。
一年室内で空気に触れさせておき、又同じ作業をくり返しますと濃い高貴な紫色になります。
自然の不思議、先人の知恵に敬服です。
草木染は植物の一番勢いのある時期に染めるのが良いと思われていますが、素材によっては強烈すぎて実用に向かない場合もあります。
失敗の経験により用途に応じて染めるタイミングを考えています。
藪芋麻で染めました
五月から六月にかけ山頂にある我が家の竹林へ淡竹と直竹の筍取りに幾度も出かけました。
ラジオのボリュームを上げ、猪の縄張りに踏み込みます。
猪は筍が大好物で食べ頃の質の良いものを掘り出し、根元の味の良い所だけを食べ、上部は残してあります。
人口の減少と共に猪の領域が広がり、用心し乍らの山野歩きです。
以前は山路に薬や染料になる草が沢山ありましたが里山の荒廃と共に女郎花(おみなえし)千振(せんぶり)が消えてしまいました。
茎が麻糸の原料であり、葉が染料になる藪苧麻を道の脇や斜面に見つけ周囲の草を刈り日光をさえぎる竹を切って、風通し良く育ちやすいようにしておきました。
梅雨に入り雨と暑さでどんどん成長した藪苧麻が花をつけ染め頃になりました。
大急ぎで上田紬を縫い絞り、六通の帯に染めた所、灰汁の媒染で水柿色が現れ感激です。
黒と茶の泥大島の着物に合わせようか、それとも絞り尽しで栗の毬で茶紫の着物を染めようか思案中です。
お仕事のご紹介
お着物の染めや仕立てをおこなっておりますが、他にも様々な活動をおこなっております。
2022.12 ©染色家 時友尚子